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松江地方裁判所出雲支部 昭和51年(ワ)40号 判決 1979年3月28日

原告 板倉敏朗 ほか一名

被告 島根県

代理人 矢田正一 中路義彦 粟屋茂信 大野隆宏 松山昭義

主文

一  被告は原告らに対し、各金一、〇〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

主文と同旨

二  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二原告らの請求原因

一  事故の発生

訴外亡板倉厚志(以下亡厚志という。)は、昭和五一年六月一八日午後四時四〇分ころ、島根県立大社高等学校(以下大社高校という。)柔道練習場において、課外活動としての柔道練習中、同校二年生の訴外山崎晴夫(以下山崎という。)に左大外刈で五本続けて投げ倒されたが、その五本目か、或いは四本目及び五本目かに頭部、頸椎部を強打して脳幹部損傷等の傷害を負い、同月二五日午後六時ころ、出雲市今市町島根県立中央病院において、外傷性脳幹部損傷により死亡した。

二  事故に至る経過

1  亡厚志は、昭和五一年四月大社高校に入学し、同月一九日同校柔道部に入部した。

なお、亡厚志は、中学生時代に柔道の練習をした経験はなく、同月二〇日以降初めてその練習を開始したものである。

2  同校柔道部は、部員八名で同校校長より委託を受けた同校教諭訴外吉野二郎(以下吉野教諭という。)が同部部長として指導、監督に当つているが、亡厚志は、前記入部の日の翌日である同月二〇日から同月三〇日ころまでの一〇日間余り受身のみの練習をした後、打込みや乱取りの練習を開始している。

3  事故当日である同年六月一八日は、授業終了後の午後三時四〇分ころから同校柔道練習場において、部員七名で練習を始め、先ず三〇分間位準備運動、補強運動等をやり、次にかかり(打込み)練習を二五分間位した。このかかり練習は、一人が相手方六人に対して各九本ずつを二巡、計一〇八本の投げのかかりと各一本ずつを二巡、計一二本の実際の投げと、相手方から同じように一〇八本のかかりと一二本の投げを受けるというものであつた。

そして、午後四時三〇分ころ、本件事故の起つた円陣(約束)練習に入つた。この円陣練習は、円陣をつくり、一人が六人の相手に各五本ずつ計三〇本を立て続けに投げ、かつ相手方六人に各五本ずつ計三〇本投げられて一巡するというもので、亡厚志ら新入部員にとつては、事故当日が初めてのことであつた。

右円陣練習が一巡し、二巡目に入つて、山崎が亡厚志を左大外刈で五本投げ終つた直後の午後四時四〇分ころ、亡厚志がその場に倒れ込み、意識不明のまま死亡するという本件事故が発生した。

4  吉野教諭は、事故発生時同校柔道練習場にいたが、同校剣道部の訴外石原親二教諭と雑談していて、事故の状況は見ていなかつた。

5  事故当時山崎は、同校体育専攻科二年在学中で、柔道初段、身長一七六・八センチメートル、体重七四・八キログラムであるのに対し、亡厚志は身長一五八・三センチメートル、体重四四・六キログラムであつて、二人の間には身長で一八・五センチメートル、体重で三〇・二キログラムの差があつた。

三  吉野教諭の注意義務

大社高校の体育担当の教師であり、かつ同校校長の委託を受け柔道部長として同校柔道部の指導に当つていた吉野教諭としては、柔道練習は一般に生命、身体に対する危険発生の蓋然性を内在するものであり、特に課外(部)活動における柔道は、勝敗や技の熟達のみを目的とするプロスポーツと異り、生徒の身心の健全な発展を目的とする学校教育の一環としてなされるべきものであることからして、同校柔道部員の柔道練習中の安全確保のために、次に述べるような注意義務を負つていた。

1  各部員の体力差、技能差などの個別的な適性を正しく把握し、その者の力量に応じた練習を指導し、特に新入部員のごとき初心者には受身を完全に体得させる。即ち、受身の体得が十分とはいいえない者に対しては、余りにも体力差や技術差のある相手を選んだり、受身の困難な鋭い技をかけさせないようにする。

2  練習が鍛練的すぎて、個別的な力量差や疲労度等を無視して、一斉指導を強要しないようにする。

3  健康状態が悪かつたり、疲労の激しい者には、練習途中であつても休憩等を随時与えて無理な練習をさせないようにする。

4  危険な技や動作を禁止する。即ち、相手の受身の技術の熟達度に応じて投技を制限したり、投方やその鋭さを工夫するようにする。

四  吉野教諭の過失の前提となる事実

1  亡厚志は、前記入部後二か月に満たない六月一八日に本件事故に遭遇しており、その間の実質練習総日数・総時間は、四八日・七四時間(内体育教科練習のそれらは、六日・五時間)で、決して十分な練習量とはいえないことは勿論である。

この間、同人が受身の練習に専念したのは、わずか一〇日間程度にすぎず、その後受身の練習を継続していたとしても、「後方受身」などという高度の受身を、大外刈等によつて投げ倒された瞬間に確実にこなしうる技能を有していなかつたことは、明らかである。

2  亡厚志は、前記のとおり小柄で体力に恵まれない方であり、大社高校入学以降二か月を経過した時期にあつて、新しい学校に慣れることと入部後初めて開始した柔道の猛練習とが重なり、事故当時心身ともに疲労が蓄積していた。

3  事故当日は、練習開始から事故発生までの約一時間にわたつて、柔道経験のある部分はもとより初心者である亡厚志ら新入部員もぶつ続けで練習をしており、一斉に休憩するとか、初心者のみ休憩をとるとかいうことは全くなく、初心者も経験者と同一ペースで前記かかり練習や円陣練習を続けた。

しかし、初心者は練習のすべてにどうしても遅れがちであつて、経験者は初心者が終るのを待つて直ちに次の練習を始めるという状態であり、およそ初心者にとつて息つく暇もないような速い進行状況であつた。

従つて、この日初めて円陣練習に参加した初心者である亡厚志、訴外神田幸義(以下神田という。)の両名にとつては、かかり練習から円陣練習へと休憩なしに続いて行く練習は初めての経験であつて、きついものであり、両名とも非常に疲れていたが、特に事故直前の亡厚志の疲れはひどく、円陣練習で神田が三〇本投げ終つて、「今日はきついなあ」と声をかけた時点で、既に「俯いて何も答えない」程に疲れており、山崎に左大外刈で投げられている段階では「頭がふらふら固定しておらず」「へばつている」状態になつていて、「受身をする余裕もなく、ただ投げられるに身を任せ」「足が宙に浮いて頭から落ちる」感じで、隣にいた神田が「これは危いな」と思う程であつたのに、吉野教諭はこれに気付かなかつた。

そして亡厚志は、山崎の五本目もしくは四、五本目の左大外刈に対応しうる受身をなしえなかつたため、後頭部と頸椎を強打し前記のとおり受傷し、死亡するに至つたのである。

4  大外刈は、相手の両腕をもつて自分の右(または左)足で相手の右(または左)足を相手の頭を地面に叩きつけるような感じで一気に後方に刈り倒すという豪快な技であり、相手にとつては投げられた瞬間、後方受身を中心として受身が十分にこなしうる技能を有していない限り、頭部が後方にのけぞり、後頭部を強打し、軽い場合で脳震蕩、重い場合には本件のごとく脳幹部損傷といつた傷害を負う投げられる側にとつて危険な技である。

5  山崎は、中学時代から柔道をやつていて、事故当時体育科二年生で既に有段であり、柔道を始めて二か月にも満たない初心者である亡厚志と比べて、前記のとおり身長、体重においても大人と子供程の差がある。しかも、その得意な投技は左大外刈で、それも鋭く強力である。

このように身長、体重等の体格的な差異のみならず、柔道経験、技術等も圧倒的に違う山崎が、小柄で初心者にすぎない亡厚志をその得意技である鋭く強力な左大外刈によつて投げ倒すことがいかに危険であるかは多言を要しない程明らかである。

6  しかるに、吉野教諭は、大外刈が右のような危険な技であるとは考えなかつたため、山崎に対し、初心者である亡厚志らを相手にして左大外刈で投げる際にも、「ゆつくり投げてやること」「刈る際に余りにも鋭く刈らないこと」「刈つた足を高く上げないこと」とか、「刈り上げた後は引手を両手で引き上げるようにして受身を助けてやること」とかいつた特別な指示、注意は与えず、経験者を投げるのと同じように投げることを許容していた。

五  吉野教諭の過失

前述のような注意義務を負う吉野教諭としては、初心者に対する安全第一主義の立場から、亡厚志の体力、技能、受身の熟達度、疲労の程度等を個別的に観察して正しく把握し、前記記載のごとく約一時間にわたる過度な練習中亡厚志に疲労が現われている場合には、これを看過することなく直ちに休憩を与えるとか、山崎に高度の危険性を内在する左大外刈で亡厚志を投げさせるのであれば前記のような両者の技術、体格、体力等の差異による事故の危険度を考えて、「強く刈らない」「刈足を高く上げない」「受身を助けてやる」などといつた適切な指導をするとかして、危険の発生を未然に防止すべきであつたにもかかわらず、吉野教諭はこれを怠つた過失により、本件事故を惹起せしめたものである。

六  被告の責任

1  本件事故は、前記のとおり、被告県の公権力の行使にあたる公務員である吉野教諭が、その職務を行うについて過失により惹起したものであるから、被告県は国家賠償法一条による責任がある。

2  仮に、被告県が同法一条による責任を負わないとしても、被告県は大社高校の設置者として亡厚志を入学させたことにより、同人及びその保護者である原告らに対し、契約上の安全配慮義務を負うと解すべきところ、亡厚志は課外活動の一環として実施された本件柔道練習中、前記のような被告の履行補助者である吉野教諭の過失により死亡したものであるから、債務不履行責任を免れない。

七  損害 <略>

八  本訴請求 <略>

第三右請求原因に対する認否 <略>

第四仮定主張としての被告の抗弁 <略>

第五右被告の抗弁に対する原告らの認否 <略>

第六証拠 <略>

理由

一  事故の発生

請求原因(以下同という。)一の事実は当事者間に争いがない。

二  事故に至る経過

1  同二の1、3、5の各事実、同二の2の事実中、吉野教諭が大社高校校長の委託により同校柔道部部長として同部の指導監督をしていること、同二の4の事実中、吉野教諭が事故発生時同校柔道練習場にいて、同校剣道部の石原教諭と雑談していたことは、当事者間に争いがない。

2  <証拠略>によると、亡厚志は同校柔道部に入部した日の翌日である昭和五一年四月二〇日から同月三〇日ころまでの一〇日間余り受身のみを練習をした後、かかり(打込み)練習、続いて同年五月二〇日前後ころから、乱取りを開始するようになつたことが認められる。

また、<証拠略>によると、吉野教諭は同校柔道練習場にいたが、本件事故の状況を見ていなかつたことが認められ、右認定に反する<証拠略>は、右各証拠と対比してたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  吉野教諭の注意義務

同三の事実は当事者間に争いがない。

四  吉野教諭の過失の前提となる事実

1  同四の1の事実中、亡厚志が入部後二か月に満たない六月一八日に本件事故に遭遇し、その間の実質練習総日数・総時間が原告主張のとおりの日・時間であること、同四の2の事実中、亡厚志が原告主張のような小柄で体力に恵まれない方であること、同四の3の事実中、事故当日の練習が事故発生まで約一時間にわたつていること、その間一斉休憩はなかつたこと、同四の5の事実中、山崎が事故当時体育科二年生で柔道初段であつたことは、当事者間に争いがない。

2  前記のとおり<証拠略>並びに前記当事者間に争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  亡厚志は、大社高校柔道部に入部する以前は柔道の経験は全くなく、右入部の日の翌日である昭和五一年四月二〇日から本件事故の日である同年六月一八日までの二か月足らずの間に、同部員としての前記のとおり日数にして合計四八日間、時間数にして合計七四時間の柔道練習をしたにすぎない初心者で、事故当時後述するような体力差、技能差を無視し初心者に対する配慮を欠いた山崎の鋭く強力な左大外刈に対応しうるだけの受身の技術を十分習得していなかつたこと。

(二)  同校柔道部は、亡厚志を含め部員八名(三年生一名、二年生三名、一年生四名、そのうち山崎ら三名が初段)という少数で構成されていたうえ、その指導者たる吉野教諭がどちらかというと対外試合を重視していたため、その練習方法も技能至上主義または鍛練第一主義的な傾向が強く、初心者たる亡厚志が受身練習のみを反復したのは最初の一〇日間位で、その後は柔道経験一年余ないし四年余の上級生部員と一緒にかかり練習、更には約束練習において五月二〇日ころ(亡厚志入部後一か月経過したころ)以降、乱取りまで実施する状況にあつたこと。

(三)  吉野教諭は、多くの柔道指導書が、受身を十分体得していないと、大外刈で投げられた場合後頭部を打つ危険性が存在することを警告していることは知つていたが、独断で右警告を排斥し、大外刈に右のような危険性があるとは全く考えなかつたため、山崎が前記のような初心者である亡厚志をその強力で鋭い左大外刈で投げる際にも、山崎に「ゆつくり投げること」「刈る際に余りにも鋭く刈らないこと」「刈つた足を高く上げないこと」とか「刈りあげた際には、引手を両手で引きあげるようにして受身を助けてやること」とかいつた具体的な指示や注意は全く与えず、経験者を投げるのと同じように投げることを許容していたこと。

(四)  山崎は、中学三年生から柔道をやつていて、事故当事体育科二年生で既に初段であり、初心者である亡厚志に比べてその経験、技術において格段の差があるのみならず前記のとおり身長で一八・五センチメートル、体重で三〇・二キログラムの差があり、しかもその得意な投技は左大外刈で、それも鋭く強力なものであること。そして山崎は、本件円陣(約束)練習において、亡厚志を左大外刈で投げる際にも、前記のとおり吉野教諭から何ら具体的指示や注意を受けていなかつたため、亡厚志が柔道経験二か月足らずの初心者である点を考慮することなく、他の上級生部員に対するのと全く同様に気合を入れて速い刈込みで刈足を高く上げて投げ続けていたこと。

(五)  事故当日は、練習開始から事故発生までの約一時間にわたつて、経験者である上級生部員はもとより初心者である亡厚志、神田の新入部員も、共に一斉休憩をとることなく、同一ペースで前記のとおり、補強運動等・かかり練習・円陣練習と練習を続けたため、亡厚志、神田の新入部員は練習のすべてにどうしても遅れがちで、上級生部員は新入部員が終るのを待つて直ちに次の練習に入るという状態であつたこと。

従つて、この日初めて円陣練習に参加した亡厚志、神田の新入部員にとつては、かかり練習から円陣練習へと休憩なしに続いて行く練習は初めての経験で、きついものであり、両名とも非常に疲れていたが、特に事故直前の亡厚志の疲れはひどく、円陣練習で神田が三〇本投げ終つて、「今日はきついなあ」と声をかけた時点で、既に「俯いて何も答えない」程に疲れており、山崎に左大外刈で投げられている段階では「頭がふらふら固定しておらず」「へばつている」状態になつていて、「受身をする余裕もなく、ただ投げられるに身を任せ」「足が宙に浮いて頭から落ちる」感じで、隣にいた神田が「これは危いな」と思う程で、引き続き山崎に大外刈で投げられれば受身ができず、後頭部等を強打し、本件のような事故を招来することが十分予想される状態にあつたのに吉野教諭は右練習現場に居合わせながら、剣道部の石原教諭と雑談するなどして練習状況を見ていなかつたため、右のような亡厚志の疲労状態に全く気付かず、亡厚志に練習を止めさせ休憩を与える措置をとらなかつたこと。

そのため、亡厚志は、山崎の前記のような気合の入つた鋭くかつ強力な五本目もしくは四、五本目の左大外刈に対応しうる受身をすることができず、後頭部及び頸椎を強打し、前記のとおり受傷し死亡したこと。

(六)  亡厚志は、事故当時心身ともに健全な満一五歳の高校一年の男子で、危険回避の判断及び行動能力を有していたと認められるから、事故直前前記のような過度の疲労を覚えれば、直ちに吉野教諭に申し出て休憩するなどして事故の発生を回避することができたのに、吉野教諭の前記鍛練第一主義的な指導方針に基づく当時の熱心な練習の雰囲気に気兼ねしたのか、同教諭に右のような申出をすることなく練習を継続したため、本件事故に遭遇するに至つたもので、亡厚志にも事故発生につき若干過失があること。

<証拠略>中、右認定に反する部分は、前記認定事実に照し信用できないし他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

五  吉野教諭の過失

以上の事実に照らすと、前記のような注意義務を負う吉野教諭が、初心者に対する安全第一主義の立場から、亡厚志の体力、技能、受身の熱達度、疲労度等を観察して正しく把握し、特に前述のとおり、円陣練習中亡厚志に、受身が困難な程の過度の疲労が見られる場合には、これを看過することなく、直ちに練習を中止させ休憩を与えるとか、山崎に前述のような危険性をもつ左大外刈で亡厚志を投げさせるのであれば、両者の前記柔道経験・技術、体格、体力等の差異による事故の危険度を考慮して、「強く刈らない」「刈足を高く上げない」「受身を助けてやる」などといつた適切な指導をするとかしていたならば、本件事故の発生を防止しえたと考えられるので、この点に吉野教諭の過失が存するものといわなければならない。

六  被告の責任

本件事故は、以上説示のとおり、島根県立大社高校の課外活動たる柔道練習中、同校柔道部長たる前記吉野教諭の過失によつて生じたものであるから、被告は国家賠償法一条に基づき原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(過失相殺)

亡厚志にも、前記四の2の(六)において認定したとおり、若干の過失があり、これが本件事故発生の一因ともなつているところ、その過失割合は前記認定の諸般の事情に照し、一割とみるのが相当である。従つて、損害額の算定に当つては、右過失割合が斟酌されるべきである。

七  損害

1  亡厚志の逸失利益と相続

(一)  亡厚志の逸失利益 合計一、六四四万三、〇〇〇円(各八二二万一、五〇〇円)

過失相殺前のそれは、原告主張のとおり一、八二七万円(当事者間に争いのない亡厚志が昭和三五年九月五日生れの男子で、死亡当時満一五歳の健康な高校一年生であつた事実及び<証拠略>によりこれを認める)

右一、八二七万円を前記一割の過失相殺をすると一、六四四万三、〇〇〇円となる。

(二)  相続 各八二二万一、五〇〇円

原告らが亡厚志の父母であることは当事者間に争いがなく、原告らはそれぞれ右一、六四四万三、〇〇〇円を二分の一の割合で相続したから、その逸失利益額は各原告につき各八二二万一、五〇〇円となる。

2  原告らの慰藉料 合計九〇〇万円(各四五〇万円)

過失相殺前のそれは、原告主張のとおり合計一、〇〇〇万円<証拠略>、前記認定の本件事故の態様、経緯、その他諸般の事情により右金額をもつて相当と認める)

右一、〇〇〇万円を前記一割の過失相殺をすると原告らの慰藉料は、合計九〇〇万円(各四五〇万円)となる。

3  葬儀費用 合計三六万円(各一八万円)

過失相殺前のそれは、原告主張のとおり合計四〇万円と認めるのが相当であり、前記一割の過失相殺をすると合計三六万円となり、従つて原告らの各負担分は、その半額の各一八万円である。

4  損害合計額

以上1ないし3の金額を合計すると、原告らの損害は合計二、五八〇万三、〇〇〇円(各一、二九〇万一、五〇〇円)となる。

(損害の一部填補)

原告らが本件損害賠償金の一部として、昭和五一年七月一日、日本学校安全会から合計二〇〇万円(各一〇〇万円)の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

5  未払損害額合計二、三八〇万三、〇〇〇円(各一、一九〇万一、五〇〇円)

前記4の損害合計額から右損害の一部填補額を控除すると、未払損害額は合計二、三八〇万三、〇〇〇円(各一、一九〇万一、五〇〇円)となる。

6  弁護士費用 合計二四〇万円(各一二〇万円)

本件訴訟の性質、経緯、難易及び右未払損害額その他の諸事情に照し、被告に対し負担させるべき弁護士費用の額は、合計二四〇万円(各一二〇万円)が相当と認める。

7  認容額 合計二、六二〇万三、〇〇〇円(各一、三一〇万一、五〇〇円)

以上のとおり、被告が原告らに対し賠償すべき損害額は、前記5の未払損害額に6の弁護士費用を加算した額合計二、六二〇万三、〇〇〇円(各一、三一〇万一、五〇〇円)となる。

八  結論

よつて、原告らが被告に対し、前記各認容額の内各一、〇〇〇万円及びこれに対する亡厚志死亡の日である昭和五一年六月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める本訴各請求は、いずれも理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川國男)

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